『幸福になりたいなら幸福になろうとしてはいけない マインドフルネスから生まれた心理療法ACT入門』を読む①

『幸福になりたいなら幸福になろうとしてはいけない マインドフルネスから生まれた心理療法ACT入門』(ラス・ハリス・著 岩下慶一・訳 筑摩書房)を再読しました。「再読」でございます。まあつまり前に読んでいるんだけど、また読んだ、っちゅうことです。

で、「人生変わった!」とかいうとさすがに言いすぎなんだけど、明らかに最近調子が多少良くなってきた。や、それもまあ、本の力なのかわからないんですけどね。そもそもの自分の人生がそういうフェーズに入ってきた、とか、良くも悪くも歳を取ってきて、いい意味での覚悟とか諦めができてきた、ということかもしれないんだけど。

具体的な変化としては、休日のサボりが、完全にはなくならないんだけど、「一日中you tubeで終了」みたいなのは減ってきたり、仕事のストレスも、もちろんゼロにはならないまでも、多少耐性がついてきた、というか。

数年前に読んだときは、本で書かれているエクササイズの実践もあまりしなかったし、今回改めて読み直してみて、内容をあんまり覚えてないということに愕然としました(笑)。で、今回はまあ、エクササイズも少しやっているので、この変化は多少は本の影響かも、とは思ったわけです。なので、ブログにも文章を残しとこう、と思った次第であります。

まずざっと本の内容を紹介します。副題通りの、「心理療法」の本ですね。でもまあ、いわゆる狭義の「疾患」をお持ちの方だけでなく、自己啓発本とかコーチングの心理学として、病院にかかかるほどではないけど仕事のストレスしんどい、とか漠然と「人生変えたい!」とか思っている方々にも読んでいただける本だと思います。

「ACT(アクト)」とは、アクセプタンス&コミットメントセラピー(acceptance and commitment therapy)の頭文字をとったものです。マンドフルネスをベースにしている療法で、具体的なエクササイズとしては、ゆっくり深呼吸して、そこに意識を集中したりするものなど、いろいろありますが、具体的には後々紹介していきますね。

この本において強調されることは「行動」であり、紹介されているエクササイズをちゃんと行うことが大事なんだけど、とはいえ、ただ読むだけでも読み物として面白かったです。そんで、具体的なエクササイズの話をする前に、根本的な思想の話というか、前提の話をした方がわかりやすいと思うんですよね。

まず、進化の話からハリスは始めています。人間の「心」というものは、人類の進化の歴史という視点から見た時に、どういう機能を持つのか?

よく世界史の授業なんかで、人類の歴史は非常に長く、いわゆる文明社会的な段階になってからはまだ短い、ってなことが言われますよね。つまりいわゆる「原始時代」的な期間を長くホモサピエンスは生きてきた、と。

で、例えば私が狩猟採集民だったとして、生存し子孫を残すために必要なのは何か?それは「食料、水、隠れ家、そしてセックス」(p.11)である。そしてそれらを獲得し、自分も生き残り、子孫を増やすために、危険を予知し回避する能力を人類は進化させてきた。つまり、「原始の心は「殺されない」ための装置だった」(p.12)のだとハリスは言っています。

そしてもう一つ、進化の過程で心が身に着けたのは、「部族の中の他のメンバーと自分を比べること」(p.12)だという。個人が原始社会において生き抜くためには、「集団への所属」(p.12)が必要なのだ。「所属する部族から追い出されたら、オオカミに食われるまでそう長くはかからない」(p.12)から。で、そのために心は、常に自分を集団の他のメンバーと比べることをやり始めた。「私は十分に集団に貢献しているだろうか?」「皆に嫌われ、憎まれてはいないだろうか?」と。

さて、以上の話で、ハリスの言う、「幸福の罠」(ちなみに本書の原題は『The Happiness Trap』という)について説明する準備ができた。

「幸福の罠」は四つの神話からなっている。

神話① 幸福はすべての人類にとって自然な状態だ

神話② 幸福でないのはあなたに欠陥があるからだ

神話③ より良い人生を創造するためにネガティブな感情を追い払わなければならない

神話④ 自分の思考や感情をコントロールできなければならない

ハリスによれば、現代のわれわれの文化は、人間は幸福な状態が「自然」であると暗黙の裡に主張している。しかしながら、これは端的に統計で否定できる、とデータを持ち出す。「毎週、成人の十人に一人が臨床的うつ病になり、五人に一人が生涯で一度はうつになる。さらに四人に一人はドラッグかアルコールの依存症になる。(略)さらにびっくり仰天の事実がある。二人に一人が人生のある時期、真剣に自殺を考え、二週間以上その状態に悩まされるという。もっと恐ろしいことに、十人に一人は本当に自殺を試みてしまう」(p.11)。

神話①の当然の帰結として、②が導き出される。本当は、不幸であることは何ら特別なことではないどころか、むしろ正常な心の働きだとさえいえる。心は進化の果てに、常に心配し、他人と自分を比べ、どこが劣っているかをいつも意識させるようになっているのだ。しかし、神話①が信じられているのなら、今不幸な自分はどこか異常で不自然である、と考えざるを得ないだろう。

で、私たちの文化は、「いい気分」を重んじている、ともハリスは言う。神話③で言われていることはこのことだ。常にポジティブな気分で心を満たせ、と社会から命令されている。そしてそのためには、神話④、思考や感情をコントロールできなければならない、と私たちは考えてしまう、というわけだ。

しかしこれこそが、「幸福の罠」であるという。というのも、端的に思考や感情はコントロールなどできないからだ。そして心は常にネガティブなことを考えるようにできている。コントロールする、という戦略も、過剰に、不適切に、使おうとするのでないならば、多くの場合問題にはならない、という。しかし実際は、効果がなく不適切な場面でも、コントロール戦略を私たちは使い続け、しかし失敗し自己嫌悪に陥り、不幸になっていく、という悪循環にはまってしまう。これがハリスの言う「幸福の罠」です。

で、この「幸福の罠」からいかに逃れればいいのか、その具体的なテクニックがこの本では紹介されている。

とりあえず①はこの辺で。次回以降で具体的なテクニックやエクササイズの話をしていこうと思います。

コメント

タイトルとURLをコピーしました